核廃絶を求める広島・長崎

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【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

「核 兵器なき世界」をめざして粘り強い闘いを続けている日本内外の数百万の人々にとっては非常に残念なことに、日本政府は、米国の「核の傘」の下における安全 保障取り決めに影響を与えるという懸念から、核兵器を違法化する努力の呼びかけに加わることを拒否した。しかし、長崎・広島両市の市長、広島県知事は、核 兵器廃絶に情熱をもって取り組むという点で揺るぎがない。

問題となった呼びかけは、10月22日、スイスのベンノ・ラグネル大使が34か国及びオブザーバー国のバチカンを代表して国連総会第一委員会(軍 縮・国際安全保障問題)において発表した。34か国[のうち、主導したスウェーデン、スイス以外の国]は、アルジェリア、アルゼンチン、オーストリア、バ ングラデシュ、ベラルーシ、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、デンマーク、エクアドル、エジプト、アイスランド、インドネシア、アイルランド、カ ザフスタン、リヒテンシュタイン、マレーシア、マルタ、マーシャル諸島、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、ペルー、フィリピン、サ モア、シエラレオネ、南アフリカ、スワジランド、タイ、ウルグアイである。

共同声明は、「全ての国は、核兵器を非合法化し、核兵器のない世界に到達する努力を強めなければならない」としたうえで、「核兵器使用がもたらす破滅的な人道的帰結への深い憂慮」を表明した。

また共同声明は、1945年の広島、長崎への原爆投下がもたらした「恐るべき帰結」にも触れ、核の不使用を保証する唯一の道筋は、「完全で不可逆的で検証可能な核兵器廃絶」だと述べている。

この動きは、国連の16の加盟国によって始められた(オーストリア、チリ、コスタリカ、デンマーク、バチカン市国、エジプト、インドネシア、アイルランド、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、フィリピン、南アフリカ、スイス)。

この16カ国は、5月2日、ウィーンで開かれた核不拡散条約(NPT)運用検討会議準備委員会会合において、同種の声明を発表している。しかし、今回とは違い、この時は日本に決議への参加を求めていなかった。

榛葉賀津也外務副大臣は、10月22日、日本政府の決定に関して記者会見で、「我々は(決議への)参加を控えることを決定した……決議は、必ずしも我が国の安全保障政策の考え方と合致しない内容が含まれていた。」と語った。

日本政府決定への批判

10月19日に日本政府の意向に関する報道がなされてまもなく、長崎市の田上富久市長は外務省を訪れ、核兵器の非人道性を身を持って知る唯一の被爆国として、日本は共同声明を支持する道義的責任があるとの意見を伝えた。

2007年に市長に就任した田上氏は、平和市長会議の副会長でもある。同会議は、1982年、米国による1945年8月の原爆投下で20万人以上の主に女性・子供・老人が犠牲となった長崎・広島両市の市長の呼びかけによって創設された。歴史上初の原爆投下の生存者―「被爆者」として知られる―は、現在でもなお、放射線の後障害に苦しめられている。

報道によると、外務省は、日本が米国による核抑止力に依存している中で、核兵器の非合法化を進めることは両立し難い、と田上市長に説明したという。

田上市長は、外務省との面談の後、ユーチューブにもアップされている長崎放送(NBC)によるインタビュー(10月19日)で、「共同声明は核兵器の違法化に向けた努力をしていくよう各国に呼びかけているのであって、日本は賛同する姿勢を見せるべきではないか。」と語っている。

田上氏が生まれたのは、広島・長崎が原爆で灰燼に帰してから11年後の1956年である。しかし、被爆者の証言に強く心を打たれ、「核兵器なき世界」を熱心に追求するようになった。

田上市長の(核廃絶にかける)熱意は、NPT運 用検討会議準備委員会での市民社会プレゼンテーションに参加した際にも明確に示されていた。田上市長は、各国代表らを前に、「2010年における実績が示 しているように世界全体で1兆6300億ドルもの巨額な資金が安全保障という名目で軍事支出に費やされており、しかもその結果、世界はより危険な場所に なってしまっています。これは、極めて馬鹿げたことではないでしょうか。今こそ、私たちはこの危険な状況から自らを解放する強い意志を示す時ではないで しょうか。」と訴えかけた。

田上市長と同じく、広島の松井一實市長(被爆者の父をもち、1953年に生まれる)も、核廃絶の主張を先導してきた。松井市長は、従来から2015年のNPT運用検討会議の広島誘致の可能性を模索している。

また松井市長は、今年8月6日の平和宣言の中で、「世界中の皆さん、とりわけ核兵器を保有する国の為政者の皆さん、被爆地で平和について考えるため、是非とも広島を訪れてください。」と語りかけた。

9 月に(筆者を含む)記者らと行った懇談会で、松井市長は、「平和市長会議創設30周年となる今年、2020年までの核兵器完全廃絶を呼びかける都市の数は 5300を超え、その居住人口は10億人を超えました。」と指摘したうえで、「来年8月には、平和市長会議の総会を広島で開催する予定です。」と語った。

「来 年の広島総会は、国際社会に対して、世界の市民の圧倒的多数が核兵器禁止条約と核兵器廃絶を求めていると示すことになるでしょう。また広島は、2014年 の春には、日本を含めた10の非核兵器国から成る『不拡散・軍縮イニシアチブ』の閣僚会合の開催地となります。私は、核兵器からの解放という要求が広島か ら広がって世界を覆い、真の世界平和に導いてくれるものと固く信じています。」と、松井市長は語った。

「国際平和拠点ひろしま構想」計画

松井市長と、2011年11月4日に「国際平和拠点ひろしま構想」を発表した湯崎英彦知事は、核兵器なき世界に向けて粘り強い闘いをつづける「ヒロシマ・ツインズ」と言ってよいだろう。この構想の下で、広島県は、多国間の核軍縮交渉と、平和構築のための人的資源の開発に積極的に関与し、核兵器廃絶の取り組みを加速することを目指している。

広島創価学会の 案内で9月にお会いした際、湯崎知事は、今後50~60年にわたって広島県が平和構築に向けて活動できる新たなアプローチを考案したとして、「広島はこれ まで、被爆者の体験談などの方法を通じて世界に影響力を持ってきました。この構想によって、広島は世界に影響力を発揮し続けますが、それは新たな形をとっ ていくことになるでしょう。」と語った。

計 画全体の中心となる「行動計画」は次の5つの要素からなっている。(1)核兵器廃絶のロードマップへの支援、(2)核テロの脅威の削減、(3)平和な国際 社会構築のための人材育成、(4)核軍縮、紛争解決、及び平和構築のための研究集積、(5)持続可能な平和支援のメカニズムの構築。

とくに、計画の目標のひとつが多国間の核軍縮交渉の開始に置かれており、核兵器国の政府高官が個人の立場で参加できる「広島円卓会議」の開催を提案している。

またこの計画では、2010年NPT運用討会議の最終文書の履行のような、軍縮取り組みの評価と「点数付け」のためのメカニズムを創設することになる。また、地域紛争解決に責任を負う専門家の養成と研究のためのセンター創設も提案している。

日本政府の決定に困惑

こうした「核兵器なき世界」の実現に向けた長崎と広島の努力が背景にあるなか、日本の外務省の発表は、野党公明党の核廃絶推進委員会のメンバーにとっては心配の種となっている。同委員会所属の4人の国会議員(衆議院・参議院)は、玄葉光一郎外相に対して、核兵器の非人道的な側面について強調した。

議員らは、国連総会第一委員会での議論に言及して、ノルウェーが来年3月に主催する「核兵器の人道上の結果」に関する国際会議(オスロ会議)で、核爆発がもたらす人道上の結果、そうした惨事に確実かつ効果的に対応する能力について議論が行われる予定であることを強調した。ノルウェー外務省軍縮・不拡散・輸出管理局のインガ・M・W・ニハマール局長は、10月18日、「オスロ会議では核爆発がもたらす人道上の結果についての知見と、事実に基づいた理解を広げることになるだろう。」と語った。

34か国が署名した今回の共同声明に加わらないとの日本政府の決定は、また別の理由によっても、奇妙なことに思える。日本政府は、9月26日に開かれた、日豪が主導している「軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)」第5回閣僚会議で、次のような共同声明に署名している。

「我々、オーストラリア、カナダ、チリ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ポーランド、トルコ及びアラブ首長国連邦の外相は、2010年NPT運用検討会議の行動計画の履行を促進するための実践的なステップをさらに前進させ、そして『核兵器のない世界』という目標を追求する決意である。我々は、これらの目的達成に向け多くの国々が取り組んでいることを認めるが、さらに多くのことがなされる必要があると考えている。」

ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部の 天野万利大使は、10月17日の国連総会第一委員会で、「核兵器使用の悲劇的な帰結は、二度と繰り返してはなりません。」、「日本は、唯一の被爆国とし て、『核兵器なき世界』に向けた現実的かつ漸進的な取り組みを続けてまいりました。現在の取り組みの一つとして、日本は、『核兵器完全廃絶に向けた統一行 動』と題する核軍縮に関する決議案を委員会に提出する予定でおります。」と述べた。

緊急提言を提出した4国会議員(赤松正雄浜田昌良谷合正明秋野公造)は、玄葉外相に宛てた緊急提言の中で、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が昨年11月26日に可決した決議について言及した。決議では、「核兵器の破壊力が筆舌に尽くしがたい被害を及ぼし、時間的・空間的な効果が制御困難であり、その脅威が環境や将来の世代に及び、危険性が拡大してゆくことを深く憂慮する」と述べられている。

また同議員らは、公明党は、核兵器国の首脳を招いて2015年に広島・長崎で核廃絶サミットを招集する構想を支持していると語った。

さらに同議員らは提言の中で、「(核廃絶)サミット実現への一歩として、既に決定している広島での2014年NPDI広島外務大臣会合を成功させなくてはならない。日本は、議長国として、NPDI作業項目6項目の中に位置づけられた『核兵器の役割低減』の議論において『核兵器の非人道性』に特化したNPDIとしての明確なメッセージを打ち出せるよう、議長国として主導的役割を果たすべきである。」と述べている。(10.25.2012) IPS Japan/IDN-InDepthNews