安定的な「核兵器ゼロ」は可能

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【ベルリン/ウィーンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

1939年に第二次世界大戦が勃発する前、ドイツ生まれのノーベル賞受賞者アルベルト・アインシュタイン博士が、米国のフランクリン・D・ルーズベルト大統領に対して、アドルフ・ヒトラー総統率いるドイツが核兵器の開発に着手した可能性があるとして、米国も核兵器の研究を開始すべきだと助言した。その結果がマンハッタン・プロジェクトであり、最終的に広島と長崎に原爆が投下されることになった。

アインシュタイン博士は、核分裂という新発見を兵器として応用したことを悔い、英国の哲学者バートランド・ラッセル卿とともに「ラッセル=アインシュタイン宣言」に署名して、核兵器の危険性を訴えた。

こ れが1955年7月のことである。それ以来、主要な核兵器国は核抑止力を、世界の平和と安全を保障するものとみなしてきた。その後2009年4月になって ようやく、バラク・オバマ大統領が、歴史的なプラハ演説において「核兵器なき世界」を呼び掛けたのである―その数ヵ月後、同氏のノーベル平和賞受賞が発表 された―。

し かし、2009年秋、別のノーベル賞受賞者であるトーマス・シェリング博士が、「核兵器なき世界」が本当に望ましいものなのか、と強烈な疑問を投げかけ た。シェリング博士は、1955年に創刊された「アメリカ芸術科学アカデミー」の機関誌である『ダイダロス』に寄せた文章「核兵器なき世界?」の中で、 「核兵器ゼロ」にまで持っていくという考え方に疑問を付し、今後の戦争において何が起こりうるかという問いを投げかけた。

シェリング博士の文章に触発されたこともあってか、ウィーン軍縮・不拡散センター(VCDNP)は11月19日・20日の両日、国際セミナー・パネル討論「永続する核兵器のない世界―実現可能か、現実的か」を開催し、地球と人類の生存にとって肝要なこの問題への解決策を探った。

この会合は、国際的な政治経済およびノルウェー外交政策に関する独立した情報研究センターである「ノルウェー国際問題研究所」(NUPI)と、戸田記念国際平和研究所(戸田城聖創価学会第二代会長[1900~58]の名にちなんで命名)が共催した。

戸 田氏は日本の教育者・哲学者であり、師である牧口常三郎創価学会初代会長(1871~1944)とともに、第二次世界大戦中、日本の軍部政府の方針に反し 生命の尊厳を訴える信仰を掲げたことから、投獄された。牧口会長は獄死したが、戸田氏は生き延び、残りの生涯を戦後日本の草の根の平和運動の発展のために 尽くした。

戸田記念国際平和研究所は、戸田会長の弟子である池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長によって1996年に創設された。SGIは、仏教のヒューマニズムに基づき平和・文化・教育運動を世界的に推進する団体である。

オーストリア外務省とモントレー国際問題研究所ジェームズ・マーチン不拡散研究センターが後援したこのセミナーの目的について、VCDNPは、 「核兵器のない世界では大きな戦争は起こらない。人はこう望むかもしれない。しかし実際のところ、戦争は常に起きてきた。シェリング博士が懸念していたの は、『核兵器なき世界』という提案の強みと弱点の双方を探るために必要なシナリオの分析が、十分になされていないという点であった。」と説明した。

またVCDNPは、 「核抑止の世界をいかに『安定的に』するかという研究のために、この半世紀、多大な知的努力が払われてきた。核兵器なき世界が核兵器のある世界よりも優れ ていることを証明するためにも、核兵器なき世界において起こりうる紛争のありようを検討しておくことには意味があろう。」とのシェリング博士の言葉を引用 している。これは「核兵器ゼロ」の意味(すなわち、核兵器を再保有するための能力を概ね「ゼロ」以下にするということ)するところは何かとの問いにつなが り、この点については多様な見解が表明されてきた。シェリング博士自身は、核兵器を再保有する能力のない世界の実現は、幻想にすぎないと強調している。

メリーランド大学公共政策校名誉教授で2005年にノーベル経済学賞を受賞したシェリング博士以外のパネリストは、元スウェーデン大使でストックホルム国際平和研究所(SIPRI)名誉所長・「核脅威イニシアチブ」(NTI)理事のロルフ・エケウス氏、ノルウェー国際問題研究所のスヴェレ・ルードガルド上級研究員、「検証研究・訓練・情報センター」(VERTIC、ロンドン)のアンドレアス・パースボ所長であった。

「緊張の世界?」

シェ リング博士は、「核兵器のない世界は、米国・ロシア・イスラエル・中国とその他の5~10か国程度が、核兵器を再び生産しその運搬手段を動員し配備する即 応態勢の計画を有する世界である。またこれらの国が、緊急の通信手段を確保し実践的訓練を重ねた上で、高度な警戒体制の下で他国の核施設を先制攻撃するた めの標的を定めているような世界である。そこでは、あらゆる危機は核危機に転じ、あらゆる戦争は核戦争に発展する危険性がある。また、最初にわずかでも核 兵器を入手した国が、自らの意思を他国に強制したり先制攻撃を行うことが可能となるため、先制攻撃への誘因が高まる。つまりそれは『緊張の世界』となるだ ろう。」と論じている。

し かしこうした議論があるからといって、エケウス氏やルードガルド上級研究員は、核兵器なき世界という大義への訴えをやめることはないようだ。なぜなら、国 連安全保障理事会の5大国が、核兵器を開発・製造・貯蔵するという「神聖なる権利」を自分たちは主張する一方で、他の5~10か国に対し核不拡散の名のも とにその権利を否定するようなことさえなければ、核兵器なき世界は実現可能だからである。

米科学者連盟は、2012年現在で世界には1万9000発以上の核弾頭があり、そのうち4400発がいつでも使用可能な「配備」状態にあると推定している。非常に核武装化された今日の世界を、核兵器なき世界に転換することが簡単ではないことは、否定しえない。

VERTICのパースボ所長は、この具体的な状況を前提として、「我々は、核兵器なき世界を可能にする現実的な条件が何かについて、よくわかっているわけではない。ある人々が論じるように、世界が抜本的に変わる必要があるのだろうか? ま た別の人々が言うように、核兵器を放棄する前に、国際間の緊張を相当程度緩和し、通常兵器が大幅に削減された世界に住む必要があるのだろうか?」と指摘し たうえで、「こうした問いに我々は十分な解答を持ち合わせているわけではない。したがって、どの答えにもほぼ同じような重みがあると考えなくてはならな い。核兵器が世界の平和を保つという抑止論を信じるか否かによって、議論は、実証的な証拠に基づかない神学論争になりがちである。つまり、どの主張も他の 主張を否定しきることはできない。」と語った。

保障措置

このことを念頭に、パースボ所長は将来における保障措置の役割を強調して、「国際原子力機関(IAEA)が実施している保障措置は、核兵器なき世界においてその重要性を増すことだろう。核分裂性物質は計量されねばならず、未申告な備蓄がないという状態が作り出されなければならない。」と語った。

ま たパースボ所長は、「核兵器なき世界における検証は非核兵器国における保障措置と非常に酷似したものとなり、しかもその規模は拡大することになるだろう。 最大の核兵器国である米国とロシアの核燃料サイクルは根本的に異なっているが、他の国におけるサイクルよりも大規模なものである。この問題に取り組み、そ れを『フルスコープ保障措置』の下に置くのは難題となるだろう。備蓄量も非常に不安定であるし、完全に確実な措置ができるまでに、何十年もの歳月を要する かもしれない。」と説明した。

しかしパースボ所長は、この課題は乗り越えられるとして、「兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉に政治的資源を投入するのがよい出発点となるだろう。待ち受ける技術的課題に対応する能力をIAEA事務局に付与することは、現在でも取りうる措置である。IAEAは既に、核分裂性物質の処理に関するほぼ完全な技術を有しているが、将来的な検証という課題への備えを始める必要がある。ここではっきりさせておこう。この任務はIAEAに課されていると思う。おそらく、それは今日我々が知っているIAEAとは異なり、より強力な権限を付与されたものとなるだろう。」と語った。

実際、包括的核実験禁止条約(CTBT)もまた、核兵器なき世界の実現において重要な役割を果たしている。CTBTには、核爆発が探知されないまま行われることを防ぐべく、独特の包括的検証体制が備わっている。国際監視体制(IMS)は、完成した場合、地球上での核爆発の兆候をモニターするために世界全体で337の施設を備えることになる。既に85%以上の施設が運営されている。

こうした検証体制の重要性を過小評価してはならない。しかし、使用するかもしれないのが誰であれ、大量破壊兵器の1つである核兵器をなくすという政治的意思を持つことが、なによりも重要なことである。

SGIと 戸田記念国際平和研究所が核兵器廃絶の大義を訴えているのはこのためである。1957年9月、戸田城聖会長は横浜で「原水爆禁止宣言」を発した。この中で 戸田会長は、核兵器を使うとの意思は人間生命の奥底に潜む魔性のなせる業であり、人類をして、対話と協力を選ぶよりも、恐怖と脅しによって他者をコント ロールし支配しようとさせるものだと述べた。この戸田会長の宣言を基盤として、池田SGI会長は、数多くの提言において、平和的な地球文明に向けた彼のビジョンを描いてきた。

池田SGI会長は、「生命尊厳の絆輝く世紀を」と題された最新の「平和提言」において、被爆70周年にあたる2015年に広島・長崎で核廃絶サミットを開催し、核廃絶に向けた勢いを不可逆なものにすべきだと訴えている。

また2015年は、核不拡散条約(NPT)運用検討会議(5年に1度開催)が開催される年でもあり、池田会長は、世界中の民衆と同じく、核兵器の破壊的能力について世界の指導者らに自覚させ、核廃絶に向けて必要な行動をとらせるきっかけになるサミットとするべきと訴えている。(11.29.2012) IPS Japan/IDN-InDepthNews